『立ち退き交渉は代行ですか?それともご自分で?オーナーの為の交渉成功術①』
立ち退き交渉は代行がベスト? それともオーナーが自分でするべき? 入居者との円満な立ち退き交渉には、正しい知識や事例などを備えたうえで取り掛かることが何よりも重要です。ここでは立ち退き交渉について最低限知っていただきたい知識をご案内します。
立ち退き交渉における立退料とは。
入居者に退去してもらうために支払う立退料とはどのような意味合いを持つのでしょうか。シンプルに、入居者に移転をお願いする「協力料」と考えれば分かりやすいでしょう。協力料には「入居者に対する移転費用の補償」という側面があります。移転費用は引越し代、敷金・礼金・保証金など移転先への支払い費用と、移転によって賃料が増加した場合の差額などをいいます。
また、「入居者が失う利益として考えられる居住権、営業権などの補償」という側面もあります。これは移転によって広さや交通の便などの面で不自由を被った場合の補償、商売の場合は従前と同一営業のための設備補償や休業補償、減収補償などが挙げられます。さらにもうひとつ、「消滅する借家権の補償」という考え方があります。公的な収用や相続税評価の際に借家権という概念があるためです。
立ち退き交渉は代行?それともご自分で?誰がベストなのか?
◆なるべくオーナー自身で交渉しない
立ち退き交渉を成功させるために大切なのは、交渉を適任者に任せることです。中には自分1人で立ち退き交渉ができる、いつも冷静で交渉事の上手なオーナーさんもいらっしゃいますが、一般的なオーナーさんの場合は、ご自身で交渉をされることはおすすめしません。
オーナーさんは最終決定権者ですから、交渉の矢面に立った場合、その場で口にした言葉が全て決定事項になってしまいます。その点、間に交渉人が入ると、ワンクッションが置かれ、じっくりと考えてから答えを出す時間的な余裕をつくることができます。また、入居者と同じ敷地内で生活している場合、顔を合わせることで互いにストレスを感じることになります。立ち退き交渉は多くの場合、オーナーさんが自分でやるより、交渉に慣れた人に間に入ってもらったほうがうまくいくものです。
◆誰に代行を依頼するのか
では、誰に頼むかという問題になります。入居者との立ち退き交渉の代行を誰がするのかに関しては、次のような選択肢が考えられます。
1.不動産仲介業者に依頼
2.建設会社・ハウスメーカーの営業担当に依頼
3.自称・立ち退き業者に依頼
4.コンサルタント会社に依頼
5.弁護士に依頼
6.裁判外紛争解決手続(ADR調停人に依頼)
1.不動産仲介業者は、本来は入居者を募集することが彼らの主な仕事なので、立ち退き交渉には慣れていません。
2. 建設会社・ハウスメーカーの営業担当者に相談することもできますが、熟練の交渉上手な担当者でないかぎりは建築に注力してもらうのが賢明でしょう。
気を付けたいのが「3. 自称・立ち退き業者」です。そういった業者はいわゆるモグリが多く、失敗の責任は取ってくれないのが通常。費用も高く、一度こういった業者に荒らされてしまうと次に引き受けてくれるところを探すのが大変です。そもそも権利調整の業務を弁護士以外の人が行って報酬をもらう行為は弁護士法に違反してしまいます。
そこで、おすすめなのが4. コンサルタント会社です。コンサルティングの一環として引き受けてもらえることがあるので、まずは相談してみましょう。実績やノウハウをもとに入居者との信頼関係構築から始めてくれます。コンサルティング費用も比較的リーズナブルな場合が多く、弁護士と連携しているので安心です。
5. 弁護士を介入させると、入居者が硬化して、かえって交渉が難航してしまう場合があります。弁護士は事態が悪化してしまった場合にお願いする最終手段と考えた方が安全でしょう。
6.は、最近注目の訴訟手続によらない紛争解決方法で、手続きとしては、「当事者間による交渉」と、「裁判」との中間に位置します。ADRは相手が合意しなければ行うことはできませんが、認定資格の土地活用プランナーなど専門家が交渉まで行ってくれ、費用も明朗なため関心が高まっています。
立ち退き交渉の手順
入居者の立ち退きは、スムーズにいかないケースがかなり多いのが現状です。過去の解決例や裁判での判例を見ても、個々の事情や解決までのプロセスは千差万別。決定的な「立ち退きの成功法則」といったものはありません。交渉期間は6ヶ月以内を目安に考えましょう。ただし、入居者個々の事情や状況によって交渉が長引くこともありますので、辛抱強く交渉をすることと、相手を思いやる気持ちが必要です。
①. 私信(手紙)を書く
立ち退きをお願いするに至った経緯、これまでの入居に感謝する気持ち、立ち退いていただくお詫びの言葉、それなりの補償を考えていることなど、気持ちを込めて書きましょう。誤解を招かないような内容にすることが大切です。
②. 立ち退き料を交渉する
交渉をする際は感情的にならないように、気を付けましょう。
・予算は多めにみておく
立ち退き料を算定するための定型的な計算式はありません。同じ建物・同じ間取りであっても入居者次第で、金額は変わります。これまでの経緯や、現在の賃料・契約の内容・家庭環境・協力的か非協力的などによって、金額が大きく変わるのが現状です。一言で、相場は○○円とはいかないのです。まれに無料で出て行ってくれる人もいます。しかし、だいたいの目安は家賃の6~10ヶ月程度が一般的。まずは数ヶ月分から交渉を開始し、上限を12ヶ月分と考えて交渉しましょう。また、予算は多めに見ておくこと。少なく見てしまって後から慌てないよう気を付けましょう。
・交渉に係わる業務費用も用意する
立ち退き料には「入居者に支払う費用」以外に、「交渉に係わる業務費用」があります。大変な労力のかかる仕事ですので、業務費用を値踏みすると時間が多くかかってしまったり、失敗することもあります。業務費用は、業務の難易度によって変わります。以前にも立ち退きを行った、以前にトラブルがあった、賃料が周辺相場より著しく安いなどの場合は高くなることが多いようです。委託戸数・入居者の年齢・家族構成・居住期間・契約内容・築年数などによっても予算は変わります。費用については、個別事情を事前に知らせれば、目安を知ることができます。
③. 引越し先を探す
退去を了解してもらっても、入居者の引越し先が決まらない場合には、入居者と一緒に転居先を探す場合もあります。入居者の事情や選り好みもありますので、忍耐が必要になりますので、信頼のおける不動産会社にお願いすることをおすすめします。
<参考>交渉が難航した場合
スムーズに退去してくれる人ばかりではありません。交渉が難航する場合は、裁判も視野に入れて対応することになります。しかし弁護士を介入させるのは最終手段とし、できるだけ話し合いで解決するのが望ましいでしょう。借地借家法は立ち退きの問題を解決する上で大切な法律知識ですから、趣旨や概要をある程度は理解されることをおすすめします。
立ち退き交渉の途中でオーナーさんはよく、「今までよくしてあげたのに」と、裏切られた気持ちになることがあります。そういう思いがあると、どうしても顔に出るものです。そして入居者の反発を招くことになります。立ち退き交渉では、オーナーさんの建替えに協力をお願いして入居者のみなさんに引越しをしていただくという発想で臨み、感情的にならないことが大切です。
2023年7月7日
交渉時のスタンスと立ち退き交渉10ヶ条を『立ち退き交渉は代行ですか?それともご自分で?オーナーの為の交渉成功術②』でご案内しております。