『立ち退き交渉は代行ですか?それともご自分で?オーナーの為の交渉成功術②』

『立ち退き交渉は代行ですか?それともご自分で?オーナーの為の交渉成功術①』では、どなたが立ち退き交渉を行うのがベストなのか、また立ち退き交渉の手順をご紹介いたしました。今回は、交渉時のスタンスと立ち退き交渉10ヶ条をご案内いたします。

基本スタンスは「協力のお願い」

なぜ「協力のお願い」になるかというと、現在の借地借家法が「入居期間中に解約をしたり、更新をしないとの取り決めをするには、借家権者(入居者)の合意が必要で、入居者の更新請求を拒めない」という、入居者側にきわめて有利な規定となっているからです。
貸主が契約の更新を拒否するためには、建物がかなり老朽化して入居者が安全に住むことができなくなったとか、入居者側に信頼関係を壊すような義務違反があったなどの「正当事由」が必要となります。義務違反には、賃料の不払い(著しい滞納)、無断転貸、無断改造、使用目的の大幅な違反などがありますが、入居者側にそういった落ち度がない限り、オーナーさんが単に「古くなってきたから建替えたい」というだけでは、入居者が「住み続けたい」と主張したときに対抗できないのが現実です。
そこで正当事由を補うものとして、立ち退き料の提示が必要になってくるわけです。立ち退き料は、引越しに要する費用の補填の他、移転により消失する居住権・借家権の補償といった性格を持つものです。
よく電話で「立ち退き料の相場を教えてほしい」という相談があるのですが、実際のところ立ち退き料には相場はありません。それぞれの事情によって金額は全く異なってくるし、裁判所も案件ごとに判断しています。

立ち退きを求められたときの入居者の反応は?

入居者の反応は、十人十色です。「はい、わかりました。ついてはせめて引越し代ぐらいはいただけませんか」という人もいれば、中には自分で引越し先を決めてくれて、退去の際に「お世話になりました」と菓子折を持ってきてくれる人もいます。
反対に「旦那がここで死んだから、私も死ぬまでここにいる」と、テコでも動かないご高齢者もいれば「引越しには協力するけれども、同じ賃料で同じ広さの物件を見つけてきてほしい」という人もいます。立ち退き交渉では金額の問題だけではなく、そうした個別の事情に合わせて対策していく必要があるのです。実際に交渉してみなければ、どう決着できるかわかりません。その意味では「合意した金額が相場」とも言えます。
立ち退き交渉に失敗し、何がなんでも出ていこうとしない、たった1人の入居者を残したまま、何年も建替えることができないというケースも相当数あります。入居者は権利を失わないためにその間、家賃を払い続けています。といっても1戸分の家賃では、固定資産税を初めとする不動産の維持管理費用にはとても足りません。オーナーさんにとっては深刻な事態で、たとえ建築計画があったとしても頓挫してしまうことになります。
交渉に失敗すれば、大切な資産が不良資産に変わってしまいかねない。それが立ち退き交渉の怖いところなのです。

オーナーさんに送る、「立ち退き交渉10ヶ条」

①. 良き相談者(不動産業者やコンサルタント)を抱えておく
交渉を依頼するなら、よく話を聞いてくれる人、礼儀作法がしっかりしている人、誠実で忍耐力がある人、きちんと事前調査をして費用についてよく説明してくれる人に。

. 感情的にならない(常に冷静に対処する)
忍耐なくして成功はなし。「今までよくしてやったのに……」は通用しない。移転に協力いただくというスタンスのほうがうまくいく。[軒下貸して母屋とられた」との発言が10年もの泥沼に発展した事例もある。

.立ち退き交渉の目的を明確に
目的を「事業化」「売却処分」「税金対策」「子供との同居」「優良入居者の再入居」など明確にしておくことで方針が立てやすくなり、交渉人や弁護士も動きやすい。

.立ち退き料の予算は多めに見ておく
事業化の場合や売却など、事業収支計画、資金計画では、立ち退き料の予算を多めに計上して、あとで慌てないようにする。

.交渉相手をよく知ること
性格・年齢・経歴・職業・出身地・経済状態・健康状態・建物の使用状況・家族関係・普段いる場所・会える場所など。また契約者が意思決定者であるとはかぎらないので注意。

.交渉記録は必ず残すこと
日記やメモでもいいので、日付と時間をはっきり記録。後日、裁判になった場合に証拠になる場合があるほか、交渉代理人に経緯説明をする際にも役立つ。

⑦.時間を惜しまないこと
事前調査、ヒヤリング期間は2週間~1ヶ月、入居者との折衝期間は3~10ヶ月、調停の場合は6ヶ月~1年半、裁判の場合は1~2年が目安。交渉人とは、スケジュール感覚についてよく合意形成しておき、イライラしてせっつくようなことは控える。

.権利調整上の問題は次世代には残さない
問題を先送りしても、必ず次世代が苦労することになる。相続対策は、納税対策だけでなく管理・経営の引き継ぎも意識する。

.裁判(紛争)を恐れるな
借地借家法をよく勉強し、依頼主の意向をよく聞いてくれてスピーディーに動く弁護士を、必要な場合は選択する。ただし、いきなり弁護士を介入させると相手を硬化させるので注意。

⑩.精神的に落ち込まないよう心がけること
交渉が難航して気持ちが落ち込んだ時は、立ち退き交渉の苦しみを抱えているのは自分一人じゃない、解決の先には明るい未来がある、と考えましょう。

2023年7月7日

『立ち退き交渉は代行ですか?それともご自分で?オーナーの為の交渉成功術①』では、立ち退き交渉手順などをご案内しております。