『事業収支の立て方 ~リスクを減らし、賃貸経営の成功確率を高める方法~』

はじめに

賃貸経営には、実は基本的な原理原則があります。有効活用を決断する入り口から、建物が完成し経営が始まるまで、そして賃貸経営中もさまざまなドラマが待ち受けております。このページでは賃貸経営を始めるべきか重要な判断材料となる事業収支の立て方を取り上げます。

なぜ事業収支が必要なのか?

土地活用を事業として行うかどうかの意思決定を行う上で重要な判断材料となる事業収支について考えてみます。土地活用における賃貸物件建設並びにその後の大家業(賃貸経営)はまさしく事業と呼べる物です。事業を行うにあたっては、収入と支出のバランス、採算性や利回りが合っていなければ成り立ちません。事業収支のシミュレーションは、ハウスメーカーや建築会社が提案してくれるケースが多いのですが、ご自身でも事業収支についての考え方や、その見方、事業収支の組み立て方を知っているのと知らないのとでは、その後の事業経営に大きな差がついてきます。

事業収支として検討すべき内容

図面を基にした基本計画概要が明記されている。
 マーケティング調査で定めたターゲットやコンセプトと配置図や平面図に乖離(かいり)が無いか確認。
②事業に要する費用の総額が明記されている
 (総事業費)。 トータルコストがどれくらい掛かるか確認。
③収入計画が明記されている(家賃収入等)。
  適正な賃料査定に基づく賃料収入となっているか確認。
④支出計画が明記されている
 (返済計画・管理計画等)。 ローン返済、大規模修繕費、リフォームなどの費用も適正に設定されているか確認。
⑤損益計算が明記されている。
  最終的に事業収支として、キャッシュフローが明確になっているか確認。

事業収支を考える上での3+α(アルファ)のポイント

賃貸経営は建物が完成して終わりではありません。むしろ建物が完成した時からがスタートでその後、何十年という長期にわたり安定的かつ健全な事業経営が出来なければ、破綻してしまいますので慎重な経営判断(実際に事業を実施するかどうかの判断)が必要です。

□総事業費  
□賃料収入
□金利
□+α(アルファ)ランニングコスト
この3+α(アルファ)が事業収支作成上の大きなポイントです。

総事業費は多めに

総事業費は、土地の取得や建物の建設(不動産の取得)など、事業を始めるにあたり掛かる総費用のことです。とくに立ち退き料や、近隣対策費、特殊な解体費などがなければ、建築費の1・15倍が目安となります。他に予備費用を見るとなお良いです。ただし、特殊な支出は別途見てください。

〈総費用に含まれる項目〉
・建築費・設計料・測量、地質調査費用・企画料・消費税・印紙代・不動産取得税(建物)・建物表示登記、
保存登記費用・抵当権設定費・火災保険料/生命保険・工事期間中金利・ローン保証料その他銀行関係費用など

〈特殊な支出として想定しておいたほうがよい項目〉
・立退き料・近隣対策費・特殊な解体費など

いずれにせよ、予算規模や設備・仕様のグレードによっても事業費も変わってきます。また、予期せぬ事態が発生することもありますので、後で慌てないように余裕を持って予備費を計上するとよいでしょう。

賃料収入は相場並みか?入居率はどうか?

 次に、賃料収入ですが、周辺相場と比較して適正な賃料査定額での収支計画になっているかどうかの見極めが重要です。事業計画書では、1部屋あたり10万円の賃料設定になっていたとしても、現実に同規模・同一条件の新築物件での実態相場が仮に9万円であれば、失敗は目に見えております。周辺の賃料相場について、成約事例を確認し、実態賃料を把握しておく事が重要です。また、収入計画では空室率についてもリスクヘッジのために確認しておきましょう。満室時の収益や利回りで計算されている事が多いのですが、想定外に入居率が低かった(空室率が高かった)場合、期待した収益や利回りが確保できないという事が起こりえます。借入している場合には返済計画にも影響が出てきますので、安全な賃料を控えめに見ておいたほうが健全経営につながります。  更には敷金や礼金(保証金)といった預かり金や収入も入居の有無や経済状況によっては変動する可能性があります。地域の慣習や時代の流れによっては、礼金が取れないというケースも出てきますので、過大な期待をしていると足元をすくわれる事にもなりかねませんので、収入計画には見込まずに、ボーナス的な発想で計画しておくことも一考です。

金利(返済)も事業収支上は重要なファクター

3つめの金利(返済)ですが、実は建築費が高い安いよりも重要なポイントになります。わずか1%の金利差でも、何十年もの返済計画の場合、その差が何千万円かになる場合もあります。また、経済情勢や金融情勢により金利は変動するものです。安定経営を目指すのであれば、将来の金利上昇の可能性も考え、固定金利を選択するなどの自己防衛策も検討すべきでしょう。都市銀行・地方銀行・信用金庫・信託銀行・生命保険会社など様々な融資機関がありますので、上手に比較し、有利な金融機関と交渉してください。

(+)α…ランニングコスト

不動産を保有・運用する事で様々なランニングコストが掛かってきます。例えば租税公課では、毎年固定資産税や都市計画税がかかりますし、不動産管理会社に管理を委託すれば、毎月管理費や清掃費用・保守点検費用などが掛かります。また、建物の維持管理の為にも定期的なメンテナンスコスト(修繕費用)が掛かります。
 一定額以内であれば、年度ごとに修繕費として経費計上できますが、資産計上されるようなリフォーム工事や設備増加を行った場合には、経理上は減価償却費となり、取得した資産に応じた年数で償却していくことになります。そういったことも視野に入れて、事業収支は厳密に、多めに考える必要があります。

東京共同住宅協会では、賃貸経営でのお悩みやお困りなどのご相談も承っておりますので、お気軽にご相談ください。