『指定解除を迎えた生産緑地、土地活用への影響は?』

大都市を中心とした地価の高騰や住宅問題が起点となり、1992年に生産緑地法の改正が行われ、市街化区域内の農地は、緑を守る農地として保全する「生産緑地」と宅地などに転用される「宅地化農地」に分けられることとなったことは、生産緑地に関心のある方は皆さまご存じでしょう。
その生産緑地の指定から「30年」が経過し、その優遇と制約の期限が切れる(生産緑地の指定が解除される)のが2022年問題です。

全国の生産緑地の数

2020年現在、全国には約12,332.3haの生産緑地地区があり、8割の約9870haが指定解除となる予定です。東京圏では(東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県)合わせて6985.7ha、大阪府では1900.5ha、愛知県では1019.5haとなっており、主に都市部に生産緑地地区が集中しております。東京ドームが4.7haですので、その膨大な量の生産緑地が不動産マーケットに供給され、大きな影響を与えるのではないかと危惧されております。

●数値出典元:国土交通省ホーム>政策・仕事>都市>都市交通調査・都市計画調査>令和2年都市計画現況調査 (24)生産緑地地区
https://www.mlit.go.jp/toshi/tosiko/toshi_tosiko_tk_000057.html

おさらい・・・生産緑地の主な内容
◆ 面積が500㎡以上であること
◆ 農林漁業を営むために必要な場合に限り、建築物の新築、改築、増築等が認められる
◆ 生産緑地としての告示日から30年が経過した場合は、自治体に「買取り」の申し出ができる
◆ 主たる従事者が死亡などで従事できなくなった場合は同様に「買取り」の申し出ができる
◆ 自治体が買取らない場合は他の農家などにあっせんする
◆ 買取りを申し出た日から3ケ月以内に所有権移転されなかった場合は制限が解除される

解除を迎える。不動産市場への影響は?

まず1992年に改正された生産緑地法で生産緑地の指定は30年とされています。
2022年になると生産緑地指定が解除されることで固定資産税の軽減や相続税の納税猶予が受けることができなくなり、宅地化する土地が増え地価が暴落するのではないかと関心を集めていました。
これが生産緑地の2022年問題となります。しかし、この2022年問題に対し2017年に生産緑地法が改正されています。この法改正では「面積要件の緩和」「建築規制の緩和」「特定生産緑地制度」が盛り込まれています。
「特定生産緑地制度」で「特定生産緑地」として指定を受けることで期限を10年間延期することができ、また期限延長以降も所有者が同意すれば10年ごとに更新が可能となります。
この様に特定生産緑地制度を活用することで生産緑地と同様に固定資産税の軽減措置や相続税の免除、納税猶予を受けることができます。また2018年には「都市農地貸借法が制定」されており、相続税納税猶予を受けたままで農地を貸すことができるようになりました。つまり限定的な宅地化は予想されますが、結果的に各制度が活用されることで生産緑地が維持され市場への影響も最小限で抑えられる可能性があると考えられます。ただ、都市農家の方々の中では、次世代のためにも宅地化して土地活用に踏み込んだほうが良いと判断する方や売却して不動産を金融資産などに変換しようと考えていらっしゃる方も多く、農家の後継者問題も変わらずにおりますので、生産緑地の2022年問題は今後、じわじわと生産緑地が宅地化されていくと推定されます。その傾向は特に東京・神奈川・千葉・埼玉などの首都圏、及び大阪、愛知などの大都市圏で宅地化され、分譲戸建てや分譲マンション、賃貸住宅などの有効活用といったかたちで、強まってくるでしょう。

●参考媒体
農林水産省:都市農地の貸借がしやすくなりますhttps://www.maff.go.jp/j/nousin/kouryu/tosi_nougyo/taishaku/tosi_taisyaku.html
国土交通省:特定生産緑地指定の手引き
https://www.mlit.go.jp/common/001282537.pdf

相談事例

生産緑地の相談については、殆ど、JA(農協)がその相談の受け皿になっております。
都市部のJA会長とお話しする機会があり、取材させていただいたところ、組合員の農家の方はやはり後継者問題(後継してくれない・就労人材不足)で悩んでおり、万一、生産緑地の問題で何らかのアクションが必要になった場合は、いくつかある農地の一部を売却して凌ぐという、比較的受け身的というか消極的な回答が多かったと聞いております。自分の代は農業を続けるが、次の世代は無理だろうと考えておりますが、現実的には相続税納税猶予を受けたままでいるため、宅地への転換は課税が重たく今すぐは出来ない状況です。
2018年に農地として貸すことができるようになったことで、最近は農業法人(農業ベンチャー系企業)の活躍も目立ち始めております。

最近の相談ごとは、やはり後継者問題と次世代の結婚問題が多く、この土地をどのようにしたら良いかという生産緑地の具体的な活用や売却の動きはまだ出てきておりません。また、複数の不動産開発業者が、まとまった土地が大量に供給されるとするならば、土地仕入れのチャンスとして2022年問題を前向きに捉えている様子です。

指定解除を迎えた今。

「生産緑地を持っている人」
生産緑地を持つ都市農家の方にとって、農業を続けられなくなったときのために、後継者を探しておくことが非常に重要です。生産緑地の指定を解除する場合、固定資産税は宅地並みになり、また、相続財産としても評価が高くなるため同時に相続対策も必要となります。これらのことは相続人と話し合うことがとても重要なことになります。先述した法整備によって、将来の選択肢は拡がっています。幅広い選択肢をもっておくためにも、常にアンテナを張り十分な情報を集めておくことが大切となります。

「その周辺に宅地を持っている人」
生産緑地の所有者は指定を解除された場合、土地は手放さずに賃貸住宅を建築し不動産収入を得るという選択肢もあり、賃貸住宅が増えることも予想されます。しかし人口が減少している地区ならば、そもそも生産緑地の宅地化は現実的ではないと考えられますが、人口が増加している地区ならば、まず地区の現状を調べることが必要となるでしょう。

新しく土地を購入して、賃貸経営を始めたい方にとっても、すでに土地を持っていて土地活用を考えている方にとっても、2022年問題は、まだ、それほどネガティブな要因にはならないと考えますが、2022年以降は徐々に生産緑地は宅地化されてきますので、競合物件は増えてまいります。その観点では、信頼のできるパートナ企業などにマーケティングをしっかり打押さえていただき、質の高い賃貸住宅経営をすることが重要です。