『入居者退去はチャンス、経営上手なリフォームのコツ』

オーナーさんの沢山ある悩みの中で第1位は空室問題で、それに次ぐのが家賃滞納、入居者トラブル、管理会社への不満、賃料下落などです。これらの悩みは、築5年過ぎから出始め、10年を過ぎると一段と激しくなります。経営上手なオーナーさんは、退去=空室と後ろ向きに考えるのではなく、手を加えて部屋のイメージを一新するチャンスと考えます。内装、設備など工夫する余地は沢山ありますので、是非いろいろ考えてみて下さい。

高い利回りや税制上の特典といった利点を持つ賃貸経営ですが、その反面、経営がうまくいかなかった場合のリスクも伴います。私ども公益社団法人 東京共同住宅協会には連日、悩みを抱えたオーナーさんから相談の電話があります。セミナーなどでの相談を合わせると、年間でおよそ1000件にものぼります。賃貸経営に関わる悩みにはどんなものがあるのでしょうか。

□オーナーにはどんな悩みが多いのか

いろいろあるオーナーさんのお悩みベスト5

第1位は、やはり空室問題です。空室が発生し、しかも長期化してなかなか埋まらない。それによって経営状態が悪化しているというケースです。相談の中には空室のためにキャッシュフローが赤字化してしまい、ローンの返済もままならないという例も見られます。

第2位は、家賃の滞納です。督促しても払ってくれない。どうしたらいいのか、というご相談です。

第3位は、入居者によるトラブルです。ペット不可の規約にもかかわらずペットを飼ったり、騒音、ゴミ出しといったマナー問題など、注意しても改めようとしない不良入居者に悩むオーナーさんが多いことが分かります。

第4位は、管理を委託している管理会社への不満です。特に深刻なのは管理会社に不満があるので解約しようとして、トラブルとなった場合です。

第5位は、賃料の下落です。長引く不況とデフレ、また近年の賃貸市場の冷え込みが、経営に深刻な影響を与えていることが分かります。

他にも退去時の原状回復義務違反や、それに伴う敷金返還についてのトラブル、また物件の老朽化に伴う修繕や建て替えの悩み、相続や相続税の支払いの問題など、オーナーさんにはさまざまな悩み事があります。

□築年数とともに悩みが増える。賃貸経営は建物老朽化との戦い

そしてこれらの悩みは、建物の築年数とともに増えていきます。新築のときには何の悩みもなかったのに、築5年を過ぎると空室や家賃滞納、不良入居者など「おや」と思うような問題が出始め、10年を過ぎるとそれが一段と激しくなります。そのとき、オーナーさんは次から次へと出てくる問題への対処に奔走することになります。私たちの経験からも賃貸経営の相談の多くは、築10年以降の物件を所有される大家さんからのものです。

賃貸経営の相談の多くは築10年以降から始まります。これは空室や家賃滞納、補修やリフォームの必要性などが、老朽化の進行とともに増えてくるためです。その意味でも、賃貸経営とは建物の老朽化との戦いであるといえます。

問題が起きてしまった場合は原因を追究し、一つ一つ潰していかなければなりません。さらに必要なのは、実際に起きる前に未然に防止することです。それによって初めて健全な経営が可能になり、利回りや税制上の特典といった賃貸経営のメリットが活きてくるのです。

幸せな老後のキーワードは、「健康で長生き」です。健康と長生きの両方があってこそ幸せなのです。長生きだけしていても、病に苦しみ続けていたとしたら幸せな老後とはいえません。賃貸経営も同じで、経営の途中からトラブル続出でオーナーさんがヘトヘトになってしまうようでは、とても幸せな経営とはいえません。人に健康が大切であるように、賃貸事業にも健全な経営が大切です。

□経営上手なオーナーさんは、退去をチャンスと考える⁉

経営上手なオーナーさんは、入居者の退去をネガティブには考えません。むしろ「手を加えるチャンス」とポジティブに考えています。退去があったときこそ、部屋のイメージを一新するようなリフォーム工事を行うチャンスと捉えましょう。

入居希望者が好きなだけ物件を見比べられる現状では、パッと見たときの部屋のインパクトが大切になります。あまり特徴のない部屋だと、さまざまな物件と接する中で忘れられてしまいがちです。壁紙一つでもデザイン性の高いものに変えれば、他の物件との差別化ができ、「あの物件はおもしろかった」と思い出してもらえるようになります。新築物件以外ではデザインを変えるチャンスは限られています。その意味で入居者が退去した際に行う原状回復工事は、イメージチェンジのための数少ない機会といえます。

「いつもの内装屋に頼んで元通りになったから、原状回復は十分」と思うのは、安易な考え方です。入居希望者の心をつかむのは、「他より一歩上を行っている部屋」なのです。

□リフォームのコツ

原状回復の際にひと工夫して、平凡な部屋とは一味違う印象に変えていくことを考えましょう。色遣いの例を挙げると、白と黒のみで統一するとか、白い壁の一面だけをダークブラウンにし、床も白を基調としてアクセントをつけるといった方法があります。こうすると部屋を広く見せる効果もあります。

色については、あまり女性の好む色にしてしまうと男性が敬遠してしまいますが、男性が好む色については女性にとってもそれほど違和感はないので、男性の社会人や学生が好む色遣いを心がけるとよいでしょう。どちらかというとダーク系のダークブラウン、濃いグレー、紺色などです。印象を強くするという意味では、赤や緑を用いるのも問題はありません。キッチンを青一色でまとめたらすぐに入居が決まったというケースもあります。このときは夏場で、涼しげなイメージが功を奏したようです。そうした季節性を考えることも大切です。

提案力のない不動産屋さんと組んでしまうと、昔ながらの白いクロスを勧められ、「言われるままにリフォームにお金をかけたのに、ちっとも空室が埋まらない」ということにもなりかねません。原状回復の機会に、最新の設備を積極的に取り入れることも大切です。といっても何もかも最新のものに変えることは難しいですから、ポイントを絞って採用していきます。

具体的には、セキュリティ関係が入居決定に効果的です。今ではマンションであればオートロックなどはどこでも見かける設備となりつつありますが、テレビ付きインターホンなどはまだ一般化していないのでお勧めです。それほど高価なものではない割に、「ここはセキュリティに気をつかっている」という印象を与えることができます。

ファミリー層では実際に物件を選ぶのは奥様であることが多く、その場合の決め手は「水回りの清潔感」です。キッチンなどが古びてきたら、リフォームシート(3Mジャパングループの「ダイノックシート」など)を表面に貼ると、それだけで印象がガラリと変わります。いくつもの色のシートを用意し、入居希望者の好みに合わせて色を変えるといった試みもよいでしょう。キッチンだけでなく風呂場でも同じようにシートを貼るだけで、それほどコストをかけることなくイメージを一変させることができます。

□損して得をする発想

入居者はお客様であり、部屋は入居者がお金を払う「商品」です。魅力ある商品には人が集まります。魅力ある商品を作ることができれば、他の物件との競争に勝って空室期間を短くすることができるのです。

そのために、時には費用をかけてリフォームを行い、誰の目にも「わあ、きれい」と思ってもらえるレベルにまで仕上げなくてはなりません。たとえば家賃10万円の物件があって、退去者が出たとします。ここで修繕費5万円で、申しわけ程度のリフォームをするのと、思いきって50万円のリフォームをするのと、将来的に見てどちらが得でしょうか。

50万円をかけてリフォームし、すぐに次の入居者が決まった場合、使った費用は50万円。これに対して、5万円のリフォームをしたものの、次の入居者が決まるまで4ヶ月かかってしまった場合、機会損失は家賃10万円×4ヵ月+5万円で45万円です。一見すると5万円で済ませた方がお得ですが、実際はその逆なのです。きちんとリフォームした場合、それによって物件の価値が高まります。これは新たな入居者が次に退去したときにも効いてきます。申しわけ程度のリフォームでお茶を濁してしまうと、次の退去時にもまた同じことの繰り返しになります。それを続けていくと、物件の価値はどんどん下がっていってしまいます。

リフォームに投じた費用は税制上、経費として落とすことができます。これはリフォームの内容によって一括で落とせる場合もあれば、何年間かに分けて償却しなければいけない場合もあります。仮に8年間かけて償却するとしても、1年あたり5万円以上が経費として落とせるので、節税分を考えると5万円程度の差額は簡単に回収できてしまうのです。もちろんリフォームといっても、やたらとお金をかければいいというものではありません。あるのが当然となっているのに今までなかった設備を導入したり、内装を変えてイメージを一新したり、それぞれの物件ごとに、手を入れるべきポイントは変わってくるのです。

東京共同住宅協会では、賃貸経営・入居者トラブル・リフォーム・リノベーションでのお悩みやお困りなどのご相談も承っておりますので、お気軽にご相談ください。