『賃貸住宅経営における本当の意味での事業承継』
オーナーさんにとって、事業承継は非常に重要な問題となります。何の対策も取らなければ、相続人同士の争いを引き起こしてしまう可能性もあり、それを回避する為には計画的な生前対策が重要になります。
今回は、健全な事業承継のポイントについて解説します。
先祖代々の土地をいかに守っていくか
オーナーさんにとっての事業承継は、先祖代々の不動産をいかに確実に守って行くかが最大のテーマとなります。現在の法律では法定相続人の数だけ財産が分割されることになります。複数の不動産をお持ちであれば遺産分割も容易ですが、問題は一つの不動産を共有名義にしてしまうケースです。
例えば、アパートを共有名義にした場合、売却、リノベーション、管理会社の変更などといった経営上の判断が必要になった際、相続人の間で経営上の意見が合わず、意思決定がはかれないという事態が起こりがちです。
相続人同士がどれだけ仲が良かったとしても、それぞれが抱える事情や価値観は異なります。更に、配偶者の意見までもが加われば、様々な場面で意見が対立してしまうのです。昔は家督相続制度があり、長男が全ての財産を引き継ぐ習慣がありました。
しかし、現在の法律では長男も相続人の一人でしかなく、財産は法定相続人が公平に相続するものとされている為、共有の問題が発生してしまうのです。事業である以上、的確に意思決定できないようでは、早晩経営に行き詰るのは必至で、結果として先祖代々の不動産を失ってしまうことになりかねません。大切な不動産を守る為、オーナーさんは計画的な事業承継を心掛ける必要があるのです。
健全な事業承継ポイントは計画的な生前対策
このような問題を次世代に残さない為には、まずは資産の棚卸が必要です。資産の棚卸とは、所有する資産の目録を作り整理すること。例えば、駐車場、アパート、マンション、別荘、自宅、遊休地など、不動産をカテゴリー別に仕分けします。そして、その資産の大きさと評価額、活用状況、収益状況などを整理しておくのです。更に、不動産だけでなく、預貯金、株、生命保険、金融商品なども仕分け・評価し、資産の全体像を一覧できるようにします。その上で、相続税を試算し、納税計画を練るようにします。
例えば、資産総額が5億円で、相続税が1億円発生すると仮定します。現金や預貯金が1億円以上あれば現金で納付します。残った資産は相続人間で協議し分けることになります。なお、現金だけでは足りない場合は不動産を売却もしくは物納・延納の手段を考えます。
この時、不動産の分け方について何も遺言されていない場合は、相続人同士が話し合いで分割することになりますが、ここでもトラブルが発生しやすい為、やはり生前対策が重要となります。例えば、妻の面倒を見てもらう子どもには母屋と収益性の良いアパートを相続させ、遠方に住んでいる子どもには管理の手間があまりかからない駐車場や遊休地を相続させるといった遺言を残しておくなどの配慮が必要です。子ども達は賃貸住宅経営の労力や判断力の必要性までは理解していないケースが多いです。このような配慮をしておくことで不毛な争いを避けられ、結果的に健全な事業承継に繋がります。
また、資産の棚卸を行うことで、もう一つ考えておくべきポイントが見えてきます。現在の資産運用が果たして最適なのかという検証です。例えば、1億円の相続税が発生するという試算が出た場合でも、活用方法を変えることで相続税自体を抑えられる場合があります。
駐車場として利用していた土地に賃貸住宅を建設したとすれば、税法上、課税評価額は大きく抑えられます。また、建設費などを借り入れることで資産を大幅に圧縮できます。但し、今まで全く不動産に触れてこなかった子供達が、いきなり土地活用をしようとした場合、経験不足から事業に失敗してしまう可能性が高いです。やはり、経験豊富なオーナーさん自身が次世代の為に土地活用を行い、誰からも喜ばれる状態で承継させるべきでしょう。
「無形の資産」もしっかりと引き継ぐこと
財産には「有形の財産」と「無形の財産」があります。有形の財産とは、すなわち現金や不動産のことです。
それでは、無形の財産とは何でしょうか。それは、経営哲学や信用、信頼、人脈のことです。これらは現金や不動産のように課税対象とはならない為、見落としがちですが、次世代に残すべき財産であることに間違いありません。ある意味、事業の承継において最も重要視しなければならないポイントと言えます。
つまり、事業承継とは経営の承継であり、経営を承継する為には、現金や不動産などの「ハード」に加え、経営哲学や信用、人脈などの「ソフト」を同時に引き継がなければならないのです。
なお、オーナーさんの人生観や仕事の仕方、取引先との関係性まで承継する為には、早い段階から経営を肌で感じさせ、人間関係の構築をスタートさせておく必要があります。一度、税理士との打ち合わせや不動産管理会社とのお付き合い、リフォーム会社からの見積もりの説明などに、子供たちを参加させてみてはいかがでしょうか。
※2015年4月17日執筆:記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。
※2022年3月10日 グラフ「相続財産の金額の構成比の推移」更新