『≪安定≫そして厳しい現実。賃貸住宅経営の展望』

コロナ禍、ウクライナ侵攻など激動の世界をみると、今後の資産活用は大丈夫なのかと考えたくなると思います。これからの世の中は、どうなるのでしょうか。賃貸住宅を経営的観点から考えてみました。過去の推移、現在の特徴、これから必要なことを考えてみました。

今後の賃貸住宅経営は

安定続く賃貸住宅経営

賃貸住宅経営の今後の展望を考えるのにあたって、まず、下のグラフを見てください。2012(平成24)年を100として、2002年から2021年までの「民営家賃」、「日経平均株価」、「住宅地価」の推移を表したものです。

もうお気づきでしょう。家賃は、最も安定しています。住宅地価も安定していますが、こちらははっきりと下落傾向です。日経平均株価は2008(平成20)年に大きく下げていますが、これはご存知、リーマン・ショックによるものです。しかし、家賃はまったくといっていいほど、影響を受けていません。「民営家賃」額は、2001(平成13)年頃をピークにおだやかに下降していますが、「住宅地価」に比べ、その下落幅はごくわずかなものに留まっています。今後、家賃が上昇に転ずるということはまずないと思われますが、こうした安定傾向は変わらず続いていくことでしょう。ですので、いま、多くの金融機関が、「大家さんにはお金を貸す」スタンスをとっています。優良な貸出し先と見ているからなのです。やはり、賃貸住宅経営は、経済環境の激動期にあってもつねに安定を望むことのできる投資手段とのひとつと言えるのではないでしょうか。

それでも厳しくなる賃貸住宅経営の市況

しかし、一方ではこんな現実もあるのです。ひとつは、「家賃の二極化」です。今、賃貸住宅経営が成り立つ(つまり儲かる)地理的環境が、急速に狭まっています。「安定の続く賃貸経営」も、物件の置かれた場所によっては、大きく、その事情が異なってくるのです。ひと言で言えば、「人気の地域は底堅い」。しかし、借り手に不人気な場所での賃貸経営は、今後はさらに厳しいものとなっていきます。地域の将来性をしっかりと見極めないままでの賃貸住宅経営への参画は、きわめて危険な冒険と心得てください。

この背景には、賃貸、分譲住宅の供給過多のほか、大都市・都心部への人口の集中、そして少子高齢化の影響があります。人だけでなく、仕事もサービスも都会に集中していく。この傾向は、今後も長期にわたって続きます。将来を見据えた上で、「これ以上は人や仕事が集まらないだろう」、「むしろ減っているのでは?」と思われる都市や地域での賃貸住宅経営を勧められても、決して安易に話に乗るべきではありません。

さらに、大都市やその都心部であっても、注意は必要です。鉄道の最寄り駅や沿線の利便性、物件のおかれている環境などによって、賃貸経営上、大きく成績に差がつく傾向はますます顕著になっていきます。各駅停車しか停まらない駅、あるいは「駅徒歩10分以上かかる立地」、これらは原則、要注意と見るべきでしょう。

引越しピークの時期でも人の移動がない⁉

最近は、人の移動が著しく鈍化していることを指摘しておかなければなりません。引越しをともなう「移動」です。今まで賃貸住宅市場の繁忙期は、「1月後半から始まり、3月半ばには終わった」と言われていました。ところが最近は、「2月中には終わってしまうのでは」とも、言われています。

新居の整理は楽しいものです

大きな理由が、転居者の減少です。コロナや経済情勢の影響が大きいでしょう。引越しをして新たな住まいを探す人が減っているのです。数少ない「動く」人は、進学・転勤など、転居せざるをえない理由を持つ人たちに限られます。加えて、各法人は社員・従業員の転勤自体を減らしています。また、更には「なんとなく環境を変えてみる」、「もうちょっと広くて綺麗な部屋へ」といったニーズも大きく減少しています。新築物件の有利を語った「新築プレミアム」という言葉も、今や成り立たなくなったのが現状です。首都圏などでは、分譲マンションの契約率が上がり、中古マンションなどの契約件数も増加しています。賃貸からの乗り換えが増えているのでは、と観測されていることも、さらなる懸念材料でしょう。

「不労所得」から「サービス業の経営」へ

ご入居者へのサービス視点

以上、「今後も安定が続く賃貸住宅経営」と、「今後も厳しくなる市況」、両方を語りましたが、ここで私がぜひ皆さんにお伝えしたいこと、それは、賃貸住宅経営における、「サービス業の視点への転換」の必要性です。

大家業イコール不労所得。それが通用する時代はもう終わったと考えるべきでしょう。少子化・人口の減少という基礎的環境の中、市況はさらに厳しくなっていくのです。これからは、「賃貸住宅経営というサービス業」を営む視点をもって努力しなければ、成功がおぼつかないばかりか、経営の存続も危うい時代がやってきます。最初にお話しした、「今後も安定が続く賃貸住宅経営」という展望は、この視点の転換ができた大家さんの未来にこそ、ひらけるものであることをしっかりと心に留めておいてください。では、賃貸住宅経営におけるサービス業の視点、とは、具体的にどんなことを指して言うのでしょうか?どんな心構えが、空室を出さない賃貸住宅経営の実現につながるのでしょうか?こちらについては、来たる賃貸経営繁忙期の時期に合わせ、回をあらためてお話していく予定です。

東京共同住宅協会では、賃貸経営でのお悩みやお困りなどのご相談も承っておりますので、お気軽にご相談ください。

※2010年1月15日掲載執筆(2022年5月5日加筆):記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。